メモ・NKT

すみません全部自分用のコピペです。

新しいリンパ球−NKT細胞

谷口 克 千葉大学大学院医学研究科免疫発生学
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/meneki/index.html

 免疫系を構成するリンパ球は,これまで胸腺で分化するT 細胞,抗体を産生するB 細胞,それにナチュラルキラー(NK)細胞と呼ばれる三種類の細胞系列が明らかにされていた.しかし,新たに発見された第四のリンパ球ともいうべき NKT 細胞は,自然免疫系と獲得免疫系を繋ぐキーの細胞として注目を集めている。

 NKT細胞は,1986年,その特徴的抗原受容体遺伝子のクローニングが成功したことから始まる.それは新しい遺伝子としてVα14遺伝子と名付けたが, 他のT細胞抗原受容体遺伝子とは異なる実に奇妙な構造的特徴を示していた.Vα14遺伝子受容体を構成するVJ遺伝子断片は,T 細胞受容体遺伝子クラスター中に存在しているにもかかわらず,Vα14遺伝子受容体はNKT細胞だけが使用し,T 細胞は使用していないこと,さらにVα14遺伝子受容体のアミノ酸配列は常に均一であったことである。

T細胞受容体遺伝子はゲノム上には遺伝子断片(VとJ)だけが存在し,リンパ球に分化決定がなされた段階で初めて遺伝子再構成が起こり,VとJ遺伝子が結合し,完全な形の受容体遺伝子ができる.その際,VJ結合部にはランダムな塩基配列の挿入が起こるため多様な受容体遺伝子ができあがる.このように本来,多様であるはずのリンパ球受容体が Vα14受容体に限り均一であることの意味は当時は不明であった。

 この奇妙な細胞の均一受容体を指標に,調べるといくつか特徴的なことがわかった.まず,(1)NKT細胞は骨髄や肝臓などの胸腺外組織にきわめて多く存在する.(2)均一なVα14遺伝子はNKT細胞のほとんどが使用する唯一の受容体で, Tリンパ球には使われていない.(3)すべての純系マウスは例外なく,ほぼ同程度NKT細胞が存在することなどから,きわめて普遍的に存在する免疫系であることを伺わせた。

 1987年,NIHのBJ FawlkesとスイスのBuddらのグループは,胸腺細胞のなかで通常受容体を発現できない未熟T細胞と考えられていた細胞の一部にVβ8.2受容体を選択的に発現しているT細胞を報告した.その後,この細胞にはT細胞にはないと考えられていたNK細胞マーカーが発現していることを見出したが,この細胞集団の数はきわめて少なく,その生理的意義はまったく不明であった。
1994年に至り,この両グループの研究者がみている細胞が同一の細胞であることが明らかになり,NKT細胞の研究は一挙に他の研究者の注目するところとなった.なかでもBendelacは,NKT細胞が種族に唯一つしかないCD1dによって抗原提示される可能性を示し,新しい認識システムが免疫系に存在することを示唆した。

実際,NKT細胞が認識する抗原はアルファガラクトシルセラミド(αGalCer) という糖脂質であり, T細胞が認識する抗原が蛋白性のものであることを考えると,T 細胞系とNKT細胞系の両方が存在することで,初めてわれわれの生態系を取り巻く,ほとんどの抗原(蛋白と糖脂質)に対処できると考えることができる.その意味では,この免疫系が通常の免疫系とどのように異なるのか重要な点である。

 免疫系は大別すると,免疫記憶を特徴とする獲得免疫系と免疫記憶をもたずに反応できる自然免疫系とに分かれる.獲得免疫系の主役はいうまでもなく,免疫記憶をもつT細胞とB細胞に他ならない. いわゆる遺伝子再構成を伴い,抗原受容体が記憶とともにチューニングされ,抗原に対する親和性が上昇するプロセスをとる.この場合,特定の受容体をもつ細胞が抗原刺激のあとクローン性の増殖を伴うことも特徴である.一方,自然免疫系は,細菌などが産生する多糖性脂質リポポリサッカライド(LPS) や寄生虫性糖脂質抗原などをそれらの受容体(Tollレセプターなど)で認識し, 活性化され,それに対処するシステムである。

この場合は,とくに担当細胞のクローン性の増殖,免疫記憶を伴う必要はない.NKT細胞はいずれに属する細胞か結論は出ていないが,クローン性の増殖を必要としなくともすでに組織には多数存在し,瞬時に反応を開始できること,糖脂質を抗原としていて,T細胞が蛋白抗原を認識するシステムとして分化してきたことと大いに異なるなど,従来の獲得免疫系細胞と異なる多くの性質,機能を兼ね備えていることから,自然免疫系に属するか,あるいは両方の中間的な細胞ではないかと考えられる。

そもそも胸腺はヤツメウナギのような無顎類にはなく,有顎類になってはじめて出現する臓器である.有顎類になって,胸腺という臓器によって多様な抗原に対処できるレパトアを用意する必要が生まれたのかもしれない.この推測は誤りかもしれないが,NKT細胞はT細胞と異なり胸腺形成前の胎生初期9.5日から出現し, 胸腺外組織で分化できる点から考えると系統発生的にもT細胞より古いのではないだろうか.いずれにせよこれらの問題は自然免疫系と獲得免疫系の関係を理解するうえできわめて大きな問題提起である。

NKT細胞はTリンパ球と比べて,機能的には未発達の状態であるといってよい.T細胞はTh1 とTh2細胞とに機能分化し,Th1はインターフェロンガンマ,IL-2をだし,遅延型過敏症のような細胞性炎症を引き起こす.一方,Th2細胞はIL-4, IL-10をだし,アレルギーや抗体産生などの液性免疫反応に関与する.またCD8キラーT細胞はパーフォリン,グランザイムを作り,標的細胞にアポトーシスを誘導して殺す働きをし,機能分担している.しかし,NKT細胞はTh1サイトカインもTh2サイトカインも分泌し,さらにパーフォリン,グランザイムを作り,標的細胞にアポトーシスを誘導して殺す.したがって,NKT細胞は一人で三役もこなすのである。

このことはNKT細胞がT細胞よりも進化論的に劣っているとみなすこともできる.いずれにせよ, NKT細胞が免疫調節系の重要な位置を占めていることは疑いのないことである.自然免疫系と獲得免疫系の相互作用が存在する証拠でもあろう。

NKT細胞が関与する病態はこれまでの予想よりはるかに多い.自己免疫疾患発症制御, アレルギー調節,抗腫瘍作用,寄生虫感染症制御,流産などに関してはNKT細胞の関与が確定的になっている.よってこれらの病態,疾病発症機序を再考する必要があることを意味している。

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 NKT細胞はT細胞の抗原受容体であるT細胞受容体(TCR)Vα24Vβ11とNK細胞のマーカーであるNKR-P1A(CD161)分子を併せ持つ第 4 のリンパ球として注目されている。
 このNKR-P1A,すなわちNK細胞受容体を調べるため,新免疫療法の有効例を対象に,CD161,NK細胞の表面マーカーCD56およびT細胞の表面マーカーCD3を用いて,CD161と最も高い相関を示す表面マーカーを調べた結果,CD3×CD161であることがわかった。さらに,NKR-P1AはIL-12,IFNγと強く相関し,逆にTCRはIL-12,IFNγと強い逆相関を示し,また,TCRとNKR-P1Aも強い逆相関を示すことが明らかになった。
 IL-XやIL-Y,クレスチンなどのβ1,3 糖はNK細胞活性化作用が弱いが,オリゴ糖(ニゲロ糖など)の糖鎖α1,3 糖はNK細胞受容体を強力に活性化してIFNγを誘導するとともに,NKT細胞自身もパーフォリンを産生して癌細胞をアポトーシスに導くものと考えられる(図 1 下)。また,キラーT細胞はHLAクラス 1 抗原と癌抗原を提示する早期癌を攻撃し,NKT細胞は癌細胞表面が癌化してHLAクラス 1 抗原が消失する進行した癌細胞を攻撃する。さらに,活性化キラーT細胞は抗癌薬や放射線ステロイドにより抑制されるが,活性化NKT細胞は抑制を受けないため,他の治療を受けながら新免疫療法による抗腫瘍効果を得ることができるようになった。現在,α1,3 糖を有する新たな物質を研究中という。

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=連載=科学技術振興事業団戦略基礎研究推進事業
その16『自己免疫制御の分子基盤』

谷口克 千葉大学大学院医学研究科免疫発生教授

糖脂質のαGalCer投与でガン転移を制御−ヒトにも効果−


<新しいリンパ球、NKT
谷口氏らはT細胞、B細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞に続く、「NKT細胞」という4番目のリンパ球を発見した。これはT細胞とNK細胞の両方の性質を持っているが、全く新しい細胞系列となる。NKT細胞には、この細胞を特徴づけて いる、「Vα14」と呼ばれる受容体が存在する。この受容体遺伝子を壊してしまうと、T細胞やB細胞NK細胞が正常に分化しても、NKT細胞への分化が完全に止まる。逆に免疫不全マウスにこの遺伝子を導入するとNKT細胞のみが出現する。

<シンプルな抗原提示系>
Vα14はT細胞の受容体同様、遺伝子再構成によってできる。しかしT細胞の受容体が、多種多様な抗原を認識するために10の15乗種類ものバラエティを持つのに対し、このVα14受容体は同種族にたった1種類しか存在しない。外から抗原情報を取り込んでT細胞に伝える樹状細胞の表面には、MHC分子があり、この上に抗原のペプチド断片をのせて抗原情報をT細胞に伝える。このMHCは多型があり、各個人で異なる(ヒトではHLA)。NKT細胞も同様に、MHCに相当するCD1dという分子によって抗原が提示されるが、この分子も同種族において1種類しかない。

<糖脂質αGalCer>
それでは抗原分子はどうであろうか? T細胞は、抗原分子としてタンパク質(ペプチド)を認識するが、NKT細胞はどうやら糖脂質は認識するようだ。スクリーニングアッセイによって「αガラクトシルセラミド(αGalCer)」という糖脂質がひっかかってきた。この糖脂質は生体内では見つかっていないが、樹状細胞によって提示され、NKT細胞を活性化する。

<細胞治療への期待>
αGalCerはNKT細胞を活性化し、ガンの転移を抑制する。ガン細胞を脾臓に注射すると、2週間で肝臓全体にガンが形成されるが、αGalCerを投与するとガン転移が完全に抑えられた。肝臓の中に存在するNKT細胞を活性化したためと考えられる。
それでは、すでにできてしまったガンに対してはどうだろうか? 同様にガン細胞を脾臓に注射して1週間ぐらい経つと、微小転移相を形成する。ここで、あらかじめαGalCerで活性化しておいた抗原提示細胞を投与すると転移ガンが消失した。これはαGalCerが手術後のガン再発予防に応用できる可能性を示唆している。
マウスの脾臓にガン細胞を注射後、α-GalCerを投与した肝臓(左)。ガン転移を完全に抑制した。右は非投与例。


−ヒトにも効く−

また最近αGalCerはヒトにも効くことがわかった。CD1dはヒトとマウスでよく似ており、種族間で保存されている。活性化されたヒトNKT細胞はヒトのガン細胞を殺すことが明らかになり、臨床的な応用に期待がかかる。CD1dは種族に1種類しかないため万人に投与できると期待できる。

−CTLとの併用治療に期待−

現在代表的なガンの免疫療法であるCTL(キラーT細胞)による方法では、MHC分子が発現されているガン細胞でないと効かないことである。CD1dの場合、MHCのない細胞を殺す。通常のガン組織にはMHCの発現していないガン細胞と、MHCの発現しているガン細胞が混在している。したがって、NKT細胞とキラーT細胞を両方利用した効果的な治療法の確立に期待がかかる。

<様々なNKT細胞の機能>
谷口氏らの研究などから、NKT細胞の生理機能が、ここ1、2年で明らかになってきた。
移植において臓器などを生着させるには、いわゆる免疫寛容(トレランス)が必要である。免疫寛容のメカニズムはまだよくわかっていないが、NKT細胞のみを欠損したマウスでは、免疫寛容を維持できない。免疫寛容の維持には、NKT細胞が必須であることがわかってきた。
2点目は、NKT細胞がガンを発症しないように抑えている(「ガンの免疫学的監 視」を行っている)ことである。発ガン剤による発ガン実験において、NKT細胞を欠損したマウスは(NK細胞が存在しても)、より早期にしかも高頻度にガンを発生してしまう。
3番目は、自己免疫性糖尿病(Ⅰ型糖尿病)という若年で発症する病気が知られているが、このモデルマウスNODに、NKT細胞の機能異常が発見されたことである。実際このモデルマウスに正常なNKT細胞を導入すると、病気を発症しない。またマウスだけでなく、ヒトの双子のうちの1人だけが糖尿病にかかってしまう症例で調べると、これがNKT細胞の機能不全によるものであることがわかった。すなわち、糖尿病の一部はNKT細胞の機能異常が原因である。
 糖脂質による新しい免疫システム「NKT細胞系」が次第に明らかになってきた。これまでわからなかった自己免疫病の発症、ガンの免疫学的監視、免疫寛容メカニズムの解明に非常に重要な役割を果たしていることに加え、ガン治療への大きな期待がかかる。
http://www.sci-news.co.jp/news/200011/121103.htm

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自然免疫から獲得免疫に至る過程で,特にTh1を主体とする防御反応の成立にVα14+NKT 細胞が重要な役割を担っている

参考文献
清野研一郎:医学の歩みvol199No7487‐489 2001

あゆみIntroduction
 NKT細胞は,読んで字のごとく,NK細胞とT細胞の両方の性質を合わせもつ新しいリンパ球分画として,1990年代に入ってその存在が確立した。NKT細胞はTCRαβとNK細胞のマーカーであるNK1.1を発現し,活性化するとNK様の強い腫瘍細胞傷害活性を発揮する。発現しているTCRαβに特徴がある。まず,そのVαやVβのusageが非常に限られており,マウスの脾ではVα14を使っているものがほとんどである。TCRβ鎖もいくつかのVβ(Vβ8など)に限定されている。
 第2の特徴は,NKT細胞のVα14TCRは,MHC class I,class IIとペプチドの複合体を認識するのではなく,糖脂質とCD1d分子がリガンドである点である。ヒトでもこの分画は保存されており,Vα24Vβ11NKT細胞がマウスのVα14NKT細胞に相当する。CD1d欠損マウスやVα14とペアになるJcr281の欠損マウスではNKT細胞が分化しないことから,分化途中でCD1d依存性にVα14TCR特異的なpositive selectionが起こっていることが推測されている。
 また,機能も非常にユニークである。活性化するとIFN-γやIL-4などのサイトカインを短時間(12時間以内)のうちに産生し,さまざまな局面で免疫反応を制御していることがわかってきた。数が少ないために研究が遅れていたが,最近では癌免疫のほかにも自己免疫疾患の発症,感染免疫,移植免疫などの領域でもNKT細胞の重要な機能が明らかになってきている。
 今回の企画では,それぞれの領域で最近興味深い研究成果を発表された先生方にお願いし,基礎研究で発見された新事実の紹介と,その研究成果をもとに(evidence-based)臨床応用にどのような展開が考えられるか,などについて簡潔にまとめていただいた。近い将来,さまざまな領域で頻繁に顔を出すことになるであろうNKT細胞の“特徴的な顔つき”をご覧いただきたい。

竹田和由 :医学の歩みvol199No7 473‐475 2001



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特集●免疫学−21世紀への展望

http://jsi.bcasj.or.jp/Newsletter/JSI_Newsletter_vol6no1_p10.html

吉木 敬 北海道大学医学部病理学第一講座

 「第27回日本免疫学会総会・学術集会」は昨年10月29日〜31日,晩秋の札幌で開催された.札幌はその2週間前,例年になく早い初雪を迎え寒さが心配されたが学会当日は3日間とも晴天に恵まれ約2,800人の参会があった.

 学会では18テーマのシンポジウムと1,238題の一般演題発表が行われた.また学会前日に「超システムとしての人間」と題して多田富雄東京理科大生命科学研究所長による公開市民講演会が行われ,一般市民450人が熱心に傾聴した.こういう企画で研究成果を広く啓蒙することは,学会として今後とも必要な事と思っている.

 ここでシンポジウムの中から2, 3紹介してみたい.まず「Function and development of NKT cells」では,新たに見い出された T 細胞系列の細胞であるNKT (natural killer T ) 細胞について興味深い発表がなされた.中でも圧巻であったのは,NKT 細胞のリガンドが MHCクラス I 様分子の一つである CD1d 分子に結合したスフィンゴ糖脂質であることを解明した谷口(千葉大)グループの発表であった.彼らはまた, IL-12 の抗腫瘍効果がNKT 細胞によって仲介されていること,したがって本細胞が腫瘍免疫においても重要な役割を果たしている可能性があることも報告した.Grusby(ハーバード大)は,CD1d 分子を欠損したマウスでは NKT 細胞が出現しないことを示した.続いて登壇した Kronenberg(ラホヤ・アレルギー免疫研)は,ヒトの CD1b 分子が Mycobacte-rium の細胞壁成分であるリポアラビノマンナンとその誘導体を T 細胞に提示すること,リポアラビノマンナンはマクロファージのマンノース受容体によって抗原提示細胞内にとりこまれ,エンドソーム様のコンパートメントで CD1b 分子に結合することを報告した.T 細胞や NKT 細胞に非ペプチド抗原を提示するCD1分子が生体防御という観点からみて,どの程度重要な役割を担っているのか,その解明が待たれる.

 次に,「Evolution and function of the MHC」では, MHC 分子の胸腺内選択における役割,MHC分子による抗原提示の分子機構,クラス I 分子による NK 細胞レパトアの選別,HLA領域のゲノム構造などのテーマについて発表がなされた.最初に登壇した笹月(九大)は,単一のペプチド・クラスII分子複合体のみを発現したトランスジェニック・マウスを用いて,同一のペプチド・クラスII分子複合体が胸腺での発現レベルの高低によりT細胞選択の陽性シグナルにも陰性シグナルにもなりうることを示した.田中(都臨床研)は,クラスI分子によって提示されるペプチドの産生酵素であるプロテアソームの構造と機能についてこれまでの研究成果を総括した後,PA28 と命名されたインターフェロンγ 誘導性のプロテアソーム活性化因子がペプチド・リガンドの産生に重要な役割を果たしていることを報告した.続いて,Hamerling(ドイツ癌研)はクラス II 分子による抗原提示の分子機構について,特にクラスII分子の一つである HLA-DO 分子の抗原提示における役割について発表した.彼らのデータによると,DO分子は HLA-DM 分子と強固に会合し,後者の触媒活性,ペプチド編集活性,シャペロン活性を増強するとのことであった.ただ,DO分子の機能に関しては,DM分子の上記活性を抑制するとの報告もあるので注意を要する.周知のように,クラス I 分子は T 細胞にペプチドを提示するのみでなく, NK 細胞に対してその細胞傷害活性を抑制するシグナルを与える機能ももっている.Parham (スタンフォード大)は,KIR と呼ばれるヒト NK 細胞の細胞傷害抑制性リセプター遺伝子群がクラスI遺伝子と共進化してきたことを非ヒト霊長類を用いた解析から示すとともに,ヒトにおける NK 細胞レパトアの選別機構について論じた.最後に,笠原(北大)はヒトゲノム内にHLA様の遺伝領域が存在すること,そして HLA 領域とHLA 様領域は脊椎動物進化の初期の段階に起こった染色体重複(おそらくゲノム重複)の結果,誕生したものと考えられることを報告した.



臨床免疫 38巻 1 号 (2002年7月発行)

最新医学55巻4号

NKT 細胞の多様性とその分化
小安重夫 慶應義塾大学医学部 微生物学教室

NKT 細胞は V alpha 14/J alpha 281 という特定のT細胞受容体(TCR)の発現や CD1 を介した脂質抗原の認識などで注目を浴びた.NKT 細胞の分化に胸腺が必要か否かに関しては議論が分かれている.結果の食い違いの多くは,NKT 細胞の多様性に起因すると思われる.発現する TCR やさまざまな表面抗原の違いから,NKT 細胞は複数の細胞群から成る.本稿では,NKT 細胞の多様性とその分化に関して最近の研究を基に解説する.